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最高裁判所第二小法廷 平成元年(行ツ)118号 判決

静岡県三島市大社町五番一号

上告人

市川隆一

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 吉田文毅

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行ケ)第三五七号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年六月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之 裁判官 中島敏次郎)

(平成元年(行ツ)第一一八号 上告人 市川隆一)

上告人の上告理由

第一点 原判決の判断に判決に影響をおよぼすことが明らかな採証法則の違背がある。

1 本件特許出願発明の特許請求の範囲は「本文記載の目的において本文に詳記し且図面に一例を示すごとく、円筒形の中空胴車の前半部分と後半部分との中間に遮断隔壁を設けた中空胴車の外側にらせんの回転による前後の進み方を相等しくし且つ前後に進むらせん翼の高さを相等しくするらせん翼を設け、前半らせん翼内にはらせん軸の回転方向に対し後傾型に正回転用ノズルを多数設け、正回転用ノズルの軸側入口は中空胴車の前半中空部に連通し、後半部らせん翼内には正回転用ノズルとは逆の回転方向に

傾けて逆転用ノズルを多数設け、逆転用ノズルの軸側入口は中空胴車の後半中空部に連通するように形成した同形のらせん体をらせん翼が互に入り込む如くに且つらせん翼外周部分と相手らせん体の胴車外周部分との間の間隙を所定に挾くするように並列し、その外形に沿う形状の室内を形成する外筒内にこれらを收容し、兩らせん軸を同一方向に回転できるようにし、中空胴車の前半中空なのと後半中空部とに切替弁の切替運動によつて交互に作動媒体を送るようにし、その切替弁に作動媒体を送る蒸気ボイラー装置もしくはガス圧縮機装置等を関連させ、これによつて並列するらせん翼に設けたノズルにより反動部

分を得て兩らせん軸を正回転および逆回転を交互に行うようにし且つノズル出口より排出する作動媒体が並列する相手らせん体のらせん翼の迎元角斜面の正面部に対し移行するようにし、また外筒内で作動媒体が回転するらせん体のらせん翼の遠心力で該作動媒体自体の一部分が流出する流体部分が兩らせん軸中心線を通過することなくして相手らせん体のらせん翼の迎元角斜面の正面部に対し移行するようにしたことを特徴とする並列するらせん翼にノズルを設けたねじ原動機における逆転装置」(昭和四一年一一月一五日附訂正明細書(甲第三〇号証)第一六頁第二行の「本文記載の目的において本文に詳記」の

記載から第一七頁第一六行の「逆転装置」までの記載、昭和五五年一〇月九日付審決勝本(甲第三号証)一丁裹一行の「その特許請求の範囲」の記載から二丁表は一二行の「逆転装置」までの記載等)であつて、その目的とするところは「正回転のときと同称に、逆回転のときにも原動機の起動力を含む出力を大きくするようにしその動〓を同じくするようにできる。」(前記した訂正明細書(甲第三〇号証)第七頁第一一行の「正回転のときと同称」の記載から第一三行の「效率を同じくするようんできる。」までの記載)ようにせんとするにある。

2 本願の発明においては、前記した全文訂正明細書(甲第三〇号証)第七頁第一四行ないし第一六行の「なおノズルの出口おらせん翼外周面部分に聞口する以外に更に、らせん翼斜面部分に聞口することがある。」の記載は「なおノズルの出口をらせん翼外周面部分に聞口する以外に、更にらせん翼斜面部分に聞口するようにして、ノズルの出口をよこぎる半径線に対しノズルの出口方向線群をして九〇度で交わるようにする輻流(半径流)後傾型の反動ノズルもしくは更に内向き半径流(内向き輻流)型の反動ノズル等の出口をらせん翼の迎え角斜面の正面部分に設けるようにし、外筒円形室の欠円個所を通過するときノズルの出口よりの噴出するノズル用作動媒

体をして相手らせん翼の迎え角斜面の背面に対し移行(運動)せしめないようにし、同時に高速度で回転するとき遠心力による逆作用を防止できるようにしなお内向き輻流型反動ノズル部分においては遠心力を利用できるようにし、比較的低速回転のときはノズル噴射による反動およびノズル噴射後の作動媒体が外筒内で相手らせん翼の迎え角斜面の正面に対し移行するようにしたことによつてらせん翼斜面の正面に加える押しのかもしくは更に出口側に復水器を設ける場合はらせん翼斜面の背面と作動媒体とが引き合う力等を用いて動力を回收するようにして始動力を含む原動機の出力を大きくするようにし且つノズル用作動

媒体の噴出速度と機械強度の範囲内で次第に高速度で回転することによつて反動ノズルによる出力を次第に大きくすることをできるようにすることがある。」(昭和六三年二月三日附原告準備書面(第四回)四丁表一一行の「即ち本願の発明」の記載から六丁表一行の「次第に大きくする」までの記載、昭和六三年一二月五日附原告準備書面(第五回)二丁表三行の「兩らせん体のらせん翼相互はめ合い」の記載から三丁表九行の「いるものである」までの記載、同三丁表一一行の「2次に、「遠心力で流出する作動媒体については」」の記載から五丁表二行の「解決を期待できるものとする。」までの記載および同五丁裏一一行の「なおノズル」の記載から七丁表一一行の「大きくすることができるようにする」までの記載等)と補正すべきところを簡略に過ぎたものである。

第二点 原判決は、本件特許出願の発明は遠心力で運動する作動媒体の逆作用を防止する格別顕著な作用効果を具備するものであることを看過してした違背がある。

1 昭和六三年一二月五日附原告準備書面(第五回)三丁表一一行ないし五丁表二行で「遠心力で流出する作動媒体」については、兩らせん体のらせん翼と相手胴車との間の間隙(兩らせん体の翼、胴相互対接間隙)を特に小さくしてある(前記した訂正明細

書(甲第三〇号証)第一六頁第一五行の「且つらせん賀」の記載から第一七行の「狭くするように並列し」までの記載)ため、外筒円形室の欠円個所を通過するらせん翼の二次の遠心力(原動機のときの遠心力)でらせん翼の外側から速度の方向に流出する作動媒体自体の流出分の運動量は兩らせん軸中心線(らせん体対で、らせん体の中心を結ぶ兩らせん体の軸に垂直な直線)の通過を殆んど阻止されることとなる。従って、その作動媒体自体の運動量が兩らせん軸中心線を通過して相手らせん翼の迎え角斜面の背面に移行し正面部、背面部の圧力差を小さくするように逆作用せんとし、同時に相手らせん翼間にあ

る作動媒体の素通りを助長するように逆作用せんとすること等の逆作用(遠心力で運動する作動媒体の逆作用)は防止されることとなる。

そして、前記した兩らせん軸中心線の通過を阻止された作動媒体自体の運動量は方向変換して兩らせん体の胴車のそれぞれの回転円の共通外接線に沿う方向に運動するようになるものは、相手らせん体のらせん翼の迎え角斜面の正面に移行(外筒円形室の欠円個所を通過するらせん翼の遠心力でらせん翼の外側から速度の方向に流出する流体が兩らせん軸中心線を通過することなくしてその中心線の延長上で交わる方向に運動して相手らせん翼の迎え角斜面の

正面に対し移行する傾向を、準同方向性と仮称)し、原動機のときは、らせん翼間にある作動媒体の素通りを防止する作用、効果が得られるようになることが期待できるものとする。そして、前記した兩らせん体のらせん翼相互はめ合い個所における兩らせん翼斜面部分で相互に相手のらせん溝を仕切つて形成するらせん翼間の容積を、その仕切り個所位置を(らせん翼間で作動媒体が断熱膨張するときの押しの力でらせん翼を回転させるようにして)共通の軸方向に連続的に移動して軸流する容積に帶同する兩らせん体の翼、胴相互対接間隙、雨らせん翼相互はめ合い間隙による漏洩については、作動媒体の速度

の範囲と機械強度の範囲内でらせん体を次第に高速度で回転することによつて、軸流する容積の單位區間当りの移動時間(軸流容積滞在時間)を次第に短縮し、軸流容積滞在時間の短縮は、同時に軸流容積に帶同する漏洩間隙の滞在時間を短縮することとなる。それで、作動媒体の通過量に対する漏洩量の割合を次第に収縮(縮退)する作用、効果を得られるようにして漏洩問題の解決を期待できるものとする。(昭和六三年一二月五日附原告準備書面(第五回)三丁表一一行の「2次に、」の記載から五丁表二行の「解決を期待できるものとする。」までの記載)としている。

2 前記した、全文訂正明細書(甲第三〇号証)第七頁第一四行ないし第一六行の「なおノズル出口をらせん翼外周面部分以外に、らせん翼斜面部分に開口することがある。」の記載によつて、本願発明の実施例を、ノズルの出口をらせん翼斜面部分に開口するようにするときはも昭和六三年一二月五日附原告準備書面(第五回)六丁表二行ないし七丁表一一行の「らせん翼斜面部分に反動ノズルの出口を開口するとき反動ノズルの出口をよこぎる半径線に対しノ

ズルの出口方向線群をして九〇度で交わるようにする半径流後傾型(輻流後傾型)の反動ノズルもしくは更に内向き半経流型(内向き輻流型)の反動ノズル等の出口を、らせん翼の迎え角斜面の正面部分に設けるようにし、外筒円形室の欠円個所を通過するとき、ノズル内で断熱膨張させてノズルの出口より噴出するノズル用の作動媒体をして相手らせん翼の迎え角斜面の正面に対し移行するようにし、且つその背面に対し移行しないようにし、同時に輻流後傾型の反動ノズルが高速度で回転するとき遠心力による逆作用を防止することができるようにし、なお内向き半径流型(内向き輻流型)の反動ノズル部分

においては遠心力を利用できるようにし、また外筒の欠円個所を通過する区間部分以外に外筒形室を回転する区間においてらせん翼の外線が円形室の内壁に対接するのに関係なくして反動ノズルの回転全周に亘り反動ノズルの出口よりノズル用の作動媒体を、連続的に噴出せしめることができるようにし、低速回転のときは、ノズル噴射による反動むよでノズル出口より噴出後の作動媒体が外筒内で更にらせん翼斜面、正面に加える押しの力等により回収する動力を大きくするようにし、かフノズルの出口より噴出する作動媒体をして相手らせん翼の迎元角斜面の背面に対し移行せしめないようにし、また出口

の蒸気を別個の後水器に送るようにしてある場合は、らせん翼斜面の背面と作動媒体とが引き合う力を利用して動力を回収する割合を更に一層大きくすること等によつて、始動力を含む原動機の出力を大きくするようにし、作動媒体、噴出速度と機械強度の範囲内でらせん体を次やに高速度で回転するようにして反動ノズルにする出力さ大きくすることができる」(昭和六三年一二月五日附原告準備書面(第五回)六丁表二行の「らせん翼斜面部分に反動」の記載から七丁表一一行の「大きくすることができる」までの記載および昭和六三年二月三日附原告準備書面(第四回)四丁表九行の「(5)前記した」全

文訂正明細書」(甲第三〇号証)」の記載から六丁表三行の「過ぎたものであろ。」までの記載等)としている。

従つて、本件特許出願の発明は、前記した遠心力で運動する作動媒体の逆作用を防止する明らかな作用、効果があるものである。

3 なお原告は、前記した全文訂正明細書(甲第三〇号証)第七頁第一四行ないし第一六行の「なおノズルの出口をらせん翼外周面部分に設ける以外に、らせん翼斜面部分に開口することがある。」の記載によつて、昭和三八年七月三日付「訂正図面第二図」(甲第二二号証の二)、「訂正図面第三図」(甲第二二号証の三)等を、平成元年三月六日に原告が提出した「明細書の説明図および図面の説明提出書」一丁裏九行ないし一口行の「明細書の説明図第2図および第三図」等にそれぞれ補正の用意がある。原判決は、本件特許出願の発明は遠心力で運動する作動媒体の逆作用を防止する格別顕著な作用、効果を具備するものであることを看過してした違背があり、民事訴訟法第三百九十四条に該当する。

以上いずれの論点よりするも原判決は違法であり破棄さるべきものである。

以上

(添付書類-原判決と同一-省略)

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